アークニュース

佐賀県のブリーダーによる犬虐待事件(1)

2006年12月13日

【2006.12.13】

日本には現在数多くのブリーダーがいますが、その多くはペットブームにのってお金を稼ぐことに夢中になっています。今回の動物愛護法改正に伴い、2007年6月まで全ての動物取扱業者は審査を経て登録が義務付けられてはいるものの、動物虐待に対し腰の重い地方自治体が実際に現地まで赴き、基準を満たしているかを取り締まるのか疑問です。

今回佐賀県で起こった事件は、行政の管理がいかに杜撰かを露呈することとなりました。
このブリーダーは繁殖を15年にわたり行ってきましたが、その現場は悲惨なものです。
鎖につながれているかケージの中に閉じ込められ、囚人のごとく逃げる事も許されず、糞尿と毛の上での生活を余儀なくされている子もいれば、悪臭が立ち込める糞尿や雨水の上に置かれた粗末な寝床で生活をしている犬もいます。
そして十分な食べ物も水も与えられず、運動をすることも出来ずに死ぬのを待っています。
敷地内には骨や死骸が転がり、一体そこで何匹の犬が死んでいったのか、知る者はだれもいないでしょう。明らかに行政はこのブリーダーのことやその惨状、犬がこれまでも死亡していたこと、そして狂犬病予防法で義務付けられている狂犬病やワクチン接種をしていないことも以前から知っていたのにも関わらず、これまで何の措置もとられてきませんでした。
現在、主に秋田と柴犬150匹が死の恐怖にさらされています。

12月13日、私どもは伊丹空港から佐賀まで飛びました。
車を走らせること約1時間半。道が狭いため、途中で小型車に乗り換えての移動でした。
ブリーダーの敷地は、土地の特産であるミカン畑が広がるあたりでした。1軒の建物と、棟続きに屋根つき犬舎が並ぶエリア、それに犬を収容している囲いとケージ群が点在するエリアに分かれています。

入り口には、小屋根のついた板敷き床にアイリッシュ・セッターがつながれ、その隣には、秋田犬が屋根も犬舎もない所に縛りつけられたまま。
どちらの犬も餌はなく、水入れには前々日から降った雨のしずくが残っているだけ。
建物の外にある屋根つきエリアには、糞尿と雨水に浸った板の上に数頭の犬がつながれています。
排水溝は見当たりません。建物の周りには、わびしげな囲いがいくつも並んでいます。
つながれたり、ケージに収容された犬たちは、長年とまではいかなくても、少なくとも何か月もの間、排泄物と抜け毛の上に立ち続けているのでしょう。きたない餌入れはからっぽで、水のない容器には青藻がこびりついたまま。犬の表情が彼らの苦しみを物語っています。
おそらく彼らは、鎖をはずされたこともなければ、何か月もケージから出してもらっていないはず。
長く伸びた爪は、一度も運動したことがない証拠です。つながれた犬の中には、鎖が肌に食い込んで、首のあたりが腫れているものもあります。ちぎれた鎖を首輪からぶらさげたまま走り回っているビーグルがいます。自由になりたくて、何度も何度もこすりつけたため、鎖が切れたのでしょう。
犬種は主に柴犬と秋田犬で、他には、ビーグル、セッター、パピヨン、コーギーが1頭ずつ、それに、(皮膚病で判断がつきにくいものの)プードルらしいのが1頭、シェルティが2頭。
建物は締まっていて中に入れないので、私は、外側をぐるっとまわってみました。開いていた端の方から、つながれたり、ケージに入った多数の犬をうかがうことができました。
糞尿と雨水の澱みの中に、犬の骨が数個見られ、入り口には7頭分の頭蓋骨と体の骨が散乱し、それにうじ虫のたかった腐乱死体が1体。すさまじい異臭を放っています。

これまで私たちは、日本でこの種の“生き地獄”をたくさん見てきましたが、今回が最悪のケースでした。


小屋もなく、短い鎖につながれたままの秋田犬

 


糞尿まみれの小屋で生活する柴犬

 


劣悪の環境に数頭で詰め込まれている犬達も

現場に到着すると、保健所の小型トラックが停まっていました。
保健所職員が私どもを待ち受けていて、敷地内に入らせまいとしました。
「オーナーの許可を得ていないから」という理由で…。
私たちは彼らを無視して、外回りを歩き写真を撮りました。彼らの説明からすると、保健所職員は以前からこの状況を知っていながら、手をこまねいていたのです。
ブリーダーが狂犬病ワクチン接種を怠り、狂犬病予防法に違反していたにもかかわらず。
獣医師を含む行政当局がこのような“生き地獄”にいる動物の苦しみと死から目をそらすことができるとは・・・信じられないことです。動物の苦しみ、衛生、病気、虐待などの見地からこの場所が閉鎖され、
犬たちには新しい家庭を用意すべきです。先進国ならどこであれ、実行されていることですが。

それから私たちは車で佐賀市内に戻り、このブリーダーが経営する「ペットショップ」と称する所を
見に行きました。ブリーダーは、松葉杖で動きまわる息子と店にいましたが、すぐに、自分たちの障害者証明書を私たちに示しました。男の動きに特に問題があるとは思えませんでした。
自分が障害者であることを犬の世話ができない口実にしているのは明白でした。それから彼は、1頭の秋田犬を300万円で売った領収書を見せました。そこは「ゴミ捨て場」さながら……店内には入らなかったものの、散乱するゴミと汚物がすべてを物語っていました。
店の裏手には山で見たのと同様のケージが置かれ、住宅街だというのに汚物、排泄物の中で犬たちが横たわっているのです。店の横には10頭ほどのチワワが犬舎もなく寒さに震えています。
夜間には犬を全部暖かい部屋に入れていると男は説明しましたが、それが嘘なのは明らかでした。

 


狭い犬舎の中で糞尿の上で生活する犬

敷地内には頭蓋骨をいくつか目にした

 

店のトラックには多数のバリケンネルが積まれていました。男はその1つを開けて、柴犬の首に輪縄をかけると、力まかせに地面に引きずり倒しました。生後10か月だという秋田犬も同様に扱いました。
2頭の扱い方を見ただけで、血も涙もない男だとわかります。秋田犬の後足は外側に曲がっています。
ケージに閉じ込められていたために筋肉が衰えてしまったのは明らかですが、私がこの点を指摘すると
「秋田犬はこんなものだよ」と言う始末。
またこの犬の歯には歯垢がついていましたが、若い犬には珍しいことです。
食餌が不適切なのか、それとも犬は男が言うほど若くないのか、どちらかでしょう。

男は明らかに二重人格者タイプでした。そこで私たちはできる限り丁寧に話しかけました。
双方とも冷静さを保てるように。管理する犬のうち120頭を手放し(世話できる限界と思われる)
30頭だけを手元に残すこと。この案に男を同意させる必要がありました。
私たちの願いは男に全部の犬をあきらめさせること……しかし、そう切り出せば成果は何一つ得られなかったでしょう。彼は承諾しました。犬の数が多すぎて面倒見きれないから120頭を手放して、手元には30頭だけ残し、将来もその限度を超えないようにすると。

帰りの便の予定が決まっていて時間がないため、次に佐賀県庁に行って、生活衛生課の職員に会いました。今までどこにいて、何を見たかを説明し、男が保管している犬の多くを手放す約束したことを報告しました。職員はすぐさま「120頭を手放して、将来にわたり、30頭を超える犬を飼わない」とする誓約書の草案を作成して、男に署名させる手はずを整え始めました。
県当局が人員を現地に派遣して、少なくとも大まかな片付けをすべきだと要求しました。
また解放された犬に新しい飼い主が見つかるまでのケアが必要なため、6か月間協力することを申し出ました。
職員は私たちに付き添ってペットショップに行き、男に署名させることに同意しました。
男に連絡しようとしましたが、なかなかつながりません。
ペットショップに引き返す途中でやっと男が電話に出たものの、今から福岡に行くと言うので、
翌日県の職員と会うことを承諾させました。そして私たちは、大阪行きの便に乗るため空港へと急ぎ、佐賀を後にしたのです。

翌日、県の職員たちがペットショップに出向いたものの、男は彼ら親子が行政当局から障害に対する十分な補償を受けていないことを理由に、いっさいの署名を拒絶しました。
私たちが県庁に行ったときに男を同行させるべきだったと悔やまれます。
せっかくのチャンスをみすみす逃したとすれば残念ですが……とはいえ、彼が同行を拒否したかもしれません。

かくなる上は、この悪質なブリーダーを告発し、権限と職務の行使により、多数の犬の苦しみを防げなかった佐賀県当局の責任を問うことしか、私たちのとるべき道はありません。

海外に親戚や友人をお持ちの方は、どうかこのブリーダーの件に対し何らかの措置をとる様、現地の日本領事館へコンタクトするようお願いして下さい。
外圧は腰の重い行政を動かすのに、非常に有効な手段です。ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。
 

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